はるかに早く、いいものができるのだ。
例のカゴメ93も、この交配という古くからある技術によってつくられた。 6500種類(遺伝子源)による交配はすでにやりつくしたかといえば、まだまだやりつくせてはいない。
遺伝子操作で「日もちのよいトマト」をつくれたと思ったら……私はかつて遺伝子操作推進派だったのだが、ある苦い失敗をきっかけに、反対派へと180度、考え方を変えた。 数年前、新聞各紙に、遺伝子組み換えで日もちのよい野菜をつくるという記事が載ったことを覚えている読者がいるかもしれない。
日もちのよい野菜やフルーツをつくりだすことは、農業にかかわるものの長年の夢である。 もし、完熟後も日もちのよい野菜をつくりだすことができたら、流通コストは格段に下がるし、野菜そのものもずっとおいしくなる。
それこそ大げさではなく、農業の革命となるはずだ。 トマト製品のメーカーとして、日もちのよいトマトを遺伝子操作でつくりだす研究に乗りだしたのは当然のことだった。

しかし、この研究は失敗だった。 思ったような結果が出なかったのだ。
理論的には、果肉に含まれるペクチンが分解されないようにすれば、トマトや果物の日もちがよくなる。 ペクチンを分解するのは、ペクチンエステラーゼとポリガラクチュロナーゼという2種類の酵素である。
そこで、この2つの酵素が働かないトマト、あるいはイチゴ、メロンをつくりだすことができれば、理屈からいって格段に日もちする野菜、果物になるはずだ。 そこで遺伝子操作の実験を続け、2つの分解酵素が働かないトマトをつくりだすことに成功した。
ところが、このトマト、酵素が働かないにもかかわらず、なぜかやわらかくなってしまうのだ。 理論にもとづいて理論どおりのものをつくったのだが、実際には日もちはよくならなかったのである。
果実の成熟という現象には、この2つの酵素以外のものが、複雑にかかわっているにちがいない。 遺伝子操作の技術というのは、植物自体を総合的にとらえたものではなく、ピンポイントでその部分をいじくるだけだ。
生物というものは、それですむほど簡単にはできていない。 遺伝子操作は、何重もの安全性を確保しながらおこなわれている。
しかし、私はこのときの失敗から、この安全性についても、ほんとうに大丈夫なのかと疑念をもつようになった。 もちろん科学は進歩するから、いずれ安全で失敗のない遺伝子操作技術が確立されるだろう。


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